アレキサンダーファン
2010年07月掲載
ホルンなんでも盤版Bang! 〜ライブラリー〜 「ホルンなんでも盤版Bang!」
ホルン関係のCD・楽譜情報を発信していきます!!


このコーナーでは、ホルンに関するディスクをご紹介いたします。
みんな知っている超定盤、「こんなのあったのか」という珍盤など、ホルンが活躍するものなら何でも。その中から今回はこの2枚です。
ここでご紹介する盤は基本的には筆者のライブラリーですので、当サイトへの、入手方法などに関するお問い合わせはご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。


盤版Bang!ライブラリー027

Trio!
サラ・ウィリス(ホルン)、コーデリア・ヘーファー(ピアノ)、町田琴和(ヴァイオリン)
Trio!
1〜4. ブラームス/ピアノ、ヴァイオリンとホルンのためのトリオ 変ヘ長調
5. デュヴェルノワ/ホルントリオ 第1番
6〜8. モーツァルト(ノイマン編)/ピアノ、ヴァイオリン、ホルンのためのトリオ 変ヘ長調
※このCDは、全国のヤマハ楽器特約店にて購入できます。

▼今月は日独の名下吹きによる2枚のアルバムをご紹介する。
▼まず1枚目はベルリンフィルのホルンセクションの紅一点にして超パワフルな下吹きホルン奏者、と今さら紹介するまでもないかもしれない、サラ・ウィリスさん(いつもの通り、サラと呼ばせていただきます)と、ピアノのコーデリア・ヘーファーさん、そしてヴァイオリンの町田琴和さんによるトリオ。ちなみに町田さんは東京で生まれ、1997年以来ベルリン・フィルの1stヴァイオリン奏者を務めている。
▼さて、このCDに関してはサラから“下吹き”の断り書きを外した方が良い。“ソロホルン奏者”としてとても豊かな音楽を奏でているからだ。ホルン、ヴァイオリン、ピアノで最初に思いつくレパートリーであろうブラームスのホルントリオが、まず1曲目に収録されている。
▼この曲を演奏するとき、ホルン奏者は音量バランスに常に気を使う必要があり、必要以上にソフトに吹いたり、ナーバスな表情付けを行なうことがあるが、共演の2人の技量にも助けられているのだろう(録音の助けもあるかもしれない)、サラは実に伸び伸びと、思い切りよく吹いている。
 そのおかげで、“たった3人による交響曲”の様相さえあるこの曲がまさにシンフォニックに、スケール大きく演奏される。そして、そういう構えの大きな音楽の中で、なだらかではあるが極めて陰影の深い表情を聴くことができる。基本的には力強く、雄大なイメージだが、だからこそその中に挿入される優しさ、柔らかさと繊細さが際だっている。そう言えば、女性3人によるトリオなのだ。
 特に第3楽章の感傷と甘美な表現、それに続く大きな感情のうねりには引き込まれる。
▼オーケストラやアンサンブルなどでのサラのあまりにスゴイ低音ばかりに注目していると、彼女のホルン奏者としての音楽性を忘れてしまいがちになってしまうことに、警鐘を鳴らしたい(もちろん、自分自身を含めて)。
▼2曲目はデュヴェルノワのホルントリオ。デュヴェルノワはブラームスよりも70年ほど前に生まれ、独学でホルンを学んで演奏家になり、フランスにおけるホルンの発達に大きな役割を果たしたらしい。この曲は大きく2部に分かれており、ドラマチックなアダージョに、朗らかなアレグレットが続く。ホルン奏者の書いた曲だけに、ホルンソロにヴァイオリンとピアノで伴奏を付けているような印象もあり、サラのホルン魅力が存分に味わえる。
▼最後はモーツァルトのトリオ? 見慣れない曲名だが、実は有名なモーツァルトのホルン五重奏曲(K.407)をエルンスト・ノイマンがホルン、ヴァイオリン、ピアノのトリオのために編曲したもの。アレンジの妙で全く違和感なく聴けるので、サラのホルンで残念ながら元の五重奏の演奏は聴いたことがないが、“サラのモーツァルト”は十分伝わってくる。伸び伸びとしていて、真っ直ぐでありながら歌心にあふれ、堂々としていると同時にコケティッシュさも感じる演奏だ。
▼「最後」と上で書いたが、モーツァルトが終わってもストップボタンを押してはいけない。約3分間のブランクの後に、デニス・ブレインがアンコールピースとして吹いて有名になった「ル・バスク」(トリオバージョン)が収録されているのだ!
▼楽器についてはアレキサンダー103としかクレジットされていないが、写真を見ると103ML。録音が2009年5月とのことなので、ハンドハンマー仕上げのプロトタイプを使用している可能性もある。



盤版Bang!ライブラリー028

阿部雅人 ホルンリサイタル2009
阿部雅人(ホルン)、遠藤直子(ピアノ)
阿部雅人 ホルンリサイタル2009
1〜3. ベートーヴェン/ホルンソナタ ヘ長調
4. ボザ/森の中で
5〜7. ヒンデミット/ホルンソナタ
8. ノイリンク/バガテル
9〜11. R.シュトラウス/ホルン協奏曲第2番 変ホ長調

▼新日本フィルハーモニー交響楽団のホルン奏者でもあり、アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンの初期メンバーの1人でもあった、日本の誇る下吹き、阿部雅人さんが初めてのソロCDをリリースした。タイトルからもわかるように、2009年5月に、阿部さんの地元でもある福島市のFTホールと、新日本フィルが拠点とするすみだトリフォニーホール(小ホール)にて開催したソロリサイタルの音源を元にCD化したものだ。
▼曲目としては、ホルンソロの主要なレパートリーと言っていい曲が並んでいるが、やはり最も注目すべきは、ノイリンク/低音ホルンのための《バガテル》だろう。この曲はオーケストラの下吹きのオーディションには必ずと言っていいほど出るのにもかかわらず、これまでほとんどCD化されていなかったし、リサイタルなどで演奏される機会も少なかったものだ。この曲を入れたことに、阿部さんの“下吹き”としてのプライドを感じる。
▼1曲目のベートーヴェン/ホルンソナタはそれとは逆に耳にする機会の多い曲だが、これほど安定した足取り、盤石と言ってもいいほどしっかりとした音楽の進め方をする演奏はあまり聴いたことがない。ノリや大げさな表情付けに頼らず、本当に音符のひとつひとつを大事に吹いているのがひしひしと伝わってくる。リサイタルで見せた、足を広げて真正面を向いて立ち、無駄な動きを一切しない演奏姿勢が思い出される。
 高音から低音まで実のある充実した阿部さんの音と、輝きと伸びのあるアレキサンダートーンでありながら、1103ならではの太い音色が相俟って、ベートーヴェンらしいとても骨太な演奏になっており、遠藤直子さんの繊細かつ力強いピアノがそれを支え、彩りを添える。
▼唯一のフランスものがボザの《森の中で(森にて)》。とは言ってもヴィブラートをかけるとか、音色をそれらしく変化させるなどという小手先の技ではなく、こちらも本当の意味で譜面に忠実に吹くことで、ボザの音楽をしっかりと表現している。短い音符で現れる低音をしっかり鳴らすことが、全体の響きをとても安定させるということがよくわかる演奏だ。
▼ヒンデミットのホルンソナタは歌い込むのが若干難しく、ともすると無機質に聞こえる場合もあるが、(くどいようだが)楽譜を読み込み、いったん曲を自分のものとしてから聴衆に伝えている印象の強い阿部さんの演奏を聴くと、とても人間的でリリカルな曲に聞こえてくる。それにしても、開放的できれいに“鳴る”低音はやはり魅力だ。
▼そして個人的にはこのCDの目玉だと思っている、ノイリンクの《バガテル》。筆者の知る限りでは若手ホルン奏者の演奏を集めた『7人のホルン奏者によるソロ曲集』で古江仁美さんの演奏と、アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンの『カーニバル』でソロを各パートに割り振った編曲くらいしか録音されていない(他にあったら、ぜひ教えて欲しい)。ソロを吹く人は上吹きが多い→上吹きにはこの曲は難しい(または、あまり魅力を感じない?)というのがその理由のひとつかもしれないが、こうして聴いてみると格好良いことこの上ない。本当によく鳴っているホルンの低音というものがどれだけ魅力的なことか! そして同時に、この曲の持つロマンティックさも十分に表現されている。
▼本当のメインはR.シュトラウスのホルン協奏曲第2番。シュトラウス晩年の作品で、非常に高度なテクニックとロマンティックな曲調が両立している。阿部さんの演奏は(何度も繰り返すが)本当に真面目に曲を捉え、楽譜と向き合い、そして半端ではない練習をしたのではないだろうか。だからこそ、聴き手は速いパッセージ(阿部さんの演奏は決して流暢というわけではない)などの技術面に気を取られることなく、骨太かつ繊細な、そして歌心あふれるこの曲の本質に触れることができるのだと思う。
▼世の中のホルンソロのCDの中には「ホルンを超越した」ような演奏もあるが(もちろんそれはそれで魅力的だが)、阿部さんの演奏には決して派手さはないが、余計なものを付け足さない“素の魅力”、つまりホルンの持つ本来の魅力を強く感じる。下吹きとか上吹きとかは関係なく、ホルン奏者の「お手本」のひとつとして、ぜひ聴いておきたいCDだ。


アレキサンダーファン編集部:今泉晃一



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