アレキサンダーファン
2018年01月掲載
第73回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
豊田実加、ソロアルバム『Le Lien』について語る

Le Lien Mika Toyoda

豊田実加(ホルン)、大野真由子(ピアノ)
[曲目]バレイ:シャンソン・ドゥ・フォレスティエ/バルボトゥ:セゾン/ケクラン:ホルン・ソナタ Op.70/プラネル:カプリース/イベール(大橋晃一 編曲):《物語》より(小さな白いろば/おてんば娘/廃墟の宮殿/机の下で/晶の籠/バルキス女王の行列)
[フォンテック FOCD9755]

Le Lien Mika Toyoda

 「ホルンなんでも盤版Bang!」のコーナーでもご紹介しているように、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の若き首席ホルン奏者であり、アレキサンダー103の愛用者である豊田実加さんが昨年初めてのソロアルバム『Le Lien』をリリース。このアルバムについて、ご本人にお話をうかがった。


みんながあまり知らないような作品を……

─ソロアルバムを作るきっかけはどんなことだったのですか。

 神奈川フィルの録音会社であるフォンテックさんから以前「やりませんか」と声をかけていただきましたが、そのときはオーケストラのことだけで余裕がありませんでした。でもしばらく経ってから、「大学を卒業してオケに入ってしまうとソロをあまりやらなくなってしまうな」と思い、挑戦することにしました。


─やはり神奈川フィルに入って数年が経ち、他のことに目を向ける余裕ができてきた?

 そうですね。このアルバムの録音は2016年ですが、その前の年あたりからアンサンブルをたくさんやるようになりました。ホルンアンサンブル"ヴィーナス"をはじめとして、ホルンカルテットをやったり、東京藝大卒業生による"ホルン広場"というアンサンブルに参加したり。ソロも、せっかく機会をいただいているので「やらなきゃな」と心を決めました。


─録音も、神奈川フィルの拠点でもある"かながわアートホール"で響きも良いですね。

 いつもオーケストラの練習で使っている慣れた場所なので、やりやすかったです。


─アルバムタイトルはフランス語で、「絆」とか「縁」という意味ですよね。

 フランスの作品を中心に取り上げているので、フランス語のタイトルを付けようかなと思っていたときに、今までのいろいろな「縁」が頭に浮かび、語感なども考えて『Le Lien(ル・リアン)』としました。


─プログラムも、ちょっと変わっていますよね。

 いわゆる"ホルンの小品"は世界中の名だたるホルン奏者たちがこれまでに収録しているじゃないですか。そうではなくて、みんながあまり知らないような作品を入れたいと思いました。


─例えばバルボトゥはホルン吹きなら名前は知っていますが、《セゾン》という曲はほとんど知られていません。

 この曲は大学(東京藝大)のときに守山(光三)先生が紹介してくれて、試験でも吹いたことがあります。プラネルは《レジェンド》の方が比較的知られていますけど、《カプリース》も良い曲ですよね。これは丸山(勉)先生が持っていた楽譜を見せてもらったことがありました。ケクランは昔守山先生が教えてくれた楽譜が家にまだあって、「せっかくフランスものをやるのなら」と引っ張り出してきました。


豊田実加

─やはり守山先生の影響は大きいのですね。
 イベールの《物語》も、「ピアノの小品をアレンジしてやりたいと思っている」という話を守山先生にしたのですが、この曲は各楽章の曲名が可愛いじゃないですか。「そういうのも合っているんじゃない?」と言ってくださって。自分の中には他にもいくつか候補があったのですが、結局この《物語》が気に入って演ることにしたんです。

─新たにアレンジしてもらったものですか。
 はい。神奈川フィルの元同僚で、大学時代は室内楽の先生だった大橋(晃一)先生にアレンジしていただきました。ホルンのことはもちろん、私の良いところも悪いところもよく知って書いてくださっているので、演奏しやすかったです(笑)。

 ─原曲を知らずに初めて聴いて、「とてもホルンぽい曲だな」と感じました。
 決して簡単ではありませんが、メロディもきれいで聴きやすいと思います。


『Le Lien』は今より少し若い自分なんです

─フランスもので固めようというのは最初からのコンセプトなんですか。

 どちらかと言うと後付けです(笑)。あまり知られていないけれど良い曲を集めていったらフランスものばかりになっていたという。


─豊田さん自身もドイツのがっちりした曲よりも……。

 こういう感じの曲調の小曲の方が好きだし、取り組みやすかったですね。


─『ホルンなんでも盤版Bang!』で「明るい曇り空」というふうにご紹介したのですが。

 それ、しっくりきます! たぶん、自分のホルンが音色的に軽くてふわっとした感じになるので。好んでそうなっているのか意図せずそうなっているのかわかりませんが、でも結果的には自分の持ち味が出ていたらいいなとは思っています。
 もともとすごいパワーがあるわけじゃないし、ラテン系の陽気な音が出せるわけでもない。それがコンプレックスであり課題でもあります。これからは大編成のオーケストラでもガンガンリードしていけるようなホルンの音も出せるようにならなければとは思っていますが、このアルバムは今私ができる精一杯で作りました。


─録音したのは2016年8月ですから、もう1年以上経つわけですよね。

 同じ曲を今やってもまた違うんだろうなと思います。物理的にはマウスピースも変えたし、ベルも違いますから。今はノーラッカーのベルを使っていて、少しワイドな音色が出せるようになったと、周りの人に言われます。ノーラッカーということよりも、もともと使っていたベルがかなり軽めのものだったので、重量が増えたことの影響が大きいような気がします。
 マウスピースも以前はティルツT4で、私は本当に楽器とかマウスピースにこだわらないので(笑)、中学生か高校生の頃に丸山先生にいただいたものをずっと使っていて、さすがに「もっと自分に合うものがあるかもしれない」と思って行き着いたのがティルツのSchmid 85でした。これもスタンダードなものですが、替えてみたらやはり音色も変わりました。だから、『Le Lien』は今より少し若い自分なんです。


─とはいえ、例えばイベールの『物語』などとても可愛らしい曲ですが、決して子どもっぽくなく、大人が昔を懐かしく振り返るように感じました。

 本当ですか!? やったー! 中身も見た目も子どもっぽいので(笑)。原曲のピアノの演奏を聴くとすごくお洒落で親しみやすい感じなので、曲に対していろいろな工夫をしたり遊びを入れたりするよりは、自分がピアノの小品を聴いたイメージのまま出そうと。ただ、「気に入った曲をホルンで演るなら」と考え、「ホルンの良さを出そう」と思って演奏しました。
 この曲は吹いていても一番楽しかったですね。私、ピアノの(大野)真由子さんが大好きなので、元がピアノの曲を伴奏してもらえたのもよかったし、編集のときに聴いていても一番いい気分でいられました。


豊田実加

─アルバムの中ではイベールがメイン扱いということですよね。
 ボリューム的にはバルボトゥの《セゾン》でもよかったのですが、まずイベールを気に入っていたということと、このCDをループして聴けるようにと考えていました。最後に重い曲を持ってくるのではなく、可愛らしい小品集で、しかもアレンジものを持ってくることで、そのまま最初に戻ったときにまたホルンのオリジナル曲が来て収まりがいいんじゃないかと。

─一番苦労した曲は?
 プラネルの《カプリース》かなあ。技術的にも難しい部分があったし、冒頭がホルンだけなので、そこをどう吹いたものかと。完全な無伴奏の曲でしたら完全に自己責任ですが、この場合は冒頭数小節で曲を作らなければならないわけで、最後までなかなか納得できずに葛藤しました。

─他にレコーディングの際の苦労話などありますか。
 あれほど自分自身との勝負をすることもなかなかないですよね。スタミナもそうですが、何より集中力を切らさないことが大変でした。先に頭が疲れてボーっとしてしまって。体力を付けるために「食べなきゃ」と思って、お昼も神奈川にあるハングリータイガーというハンバーグ屋さんで珍しく1人前完食したのですが、おかげで午後になったらどうしても眠くなってしまって。それが思い出ですかね(笑)。


ある種“ヒーリングホルン”のような感覚はあった

─ご自身では、このアルバムの出来をどう感じますか。

 実は、出来上がってからまだ一度も聴いていないんです! 編集作業のときに、聴けば聴くほど気になるところがどんどん増えていったし、他の人なら気にしないような自分のダメなところにばかり意識が行くようになってしまって。それ以来聴けていないんです。
 こんなに楽観的な性格なのに、ホルンのことになると神経質な面が出てきてしまって、いろいろなことが気になってしまうんですよね。あとからあとから「もっとこうできたんじゃないか」という思いが出て来てしまって、ただそうしたいと思ったところで自分の技術がまだ足りていなかったり。自分の持ち味を生かして吹いているときはいいのですが、例えばダークな音色を出したいとか、悲しい感情を込めたいなど、普段自分の持っているものではない方向を求めたときに、イメージができていないのか、表現方法ができていないのか、思ったように行かないんですよね。


豊田実加

─でもこのアルバムを聴いていて、「悲しくて涙を流さんばかり」ではなく、もっと繊細で淡い感情を込めているのがとても素敵に思ったのですが。
 すごく悲しい表現もできた上で、ちょっとライトな悲しさも表現できるようになるのが、課題ですね。このアルバムを作るときからある種"ヒーリングホルン"のような感覚はあったかもしれません。すごく元気ですごく張り切っている音楽ではないし、すごく重くてすごく悲しい音楽ではないなあという感覚です。

─気の早い話ですが、2枚目のご予定などは……。
 考えたこともないですねー。でも、もともと室内楽が好きなので、他の楽器とピアノのトリオなどを入れてみたいですね。ブラームスのホルン・トリオをはじめとして、オーボエとのトリオもあるし、クラリネットのトリオもあるじゃないですか。CDに限らず、これから演奏会でもそういう小編成の室内楽に取り組んでみたいと思っています。




文:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


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