アレキサンダーファン
2015年7月掲載
第64回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパン 第8回定期演奏会


 都内のオーケストラに所属するホルン奏者で構成されるアレキサンダーホルンアンサンブルジャパン(以下、アレキジャパン)が、7月21日に銀座のヤマハホールにて第8回定期演奏会を開催した。ご存知のように、全員がアレキサンダーのホルンを使用しているのが最大の特徴だ(メンバーと使用楽器は別表参照)。第7回が2010年だから、実に5年ぶりの定期演奏会となり、待ちわびていた人も多いのではないだろうか(筆者を含めて)。ちなみに設立は1998年。以来メンバーの入れ替わりはあったが、変わらぬアレキサンダーサウンドをたっぷりと堪能できる一夜となった。




アレキジャパンならではの輝かしいサウンド、美しいハーモニーに魅了

 1曲目のターナー《Take 9 アンティフォナル・ファンファーレ》は久しぶりの定期演奏会を飾るような華やかなナンバーであり、アレキサンダーならではの輝かしい音色がぴったりとマッチしていた。迫力はあっても雑味のないffのハーモニー、分厚い低音、細かな音型の重なりの中からすっと浮き上がるメロディなど、ワクワク感あふれるオープニングとなった。
 続くリディルの《MEYENMUSICK 16世紀ブレスラウの5月の歌の主題による4本のホルンのための変奏曲》は、1st上間、2nd日橋、3rd藤田、4th伴野のカルテット。様々な組み合わせによるデュオの掛け合いとか、変拍子を含む複雑な絡みとか、レシタティーボ風など、様々な曲想の短めのバリエーションが次々に現れて、曲の面白さ、ホルンという楽器の持つ多様性、アレキサンダーのポテンシャル、そしてそれらを自在に吹きこなす奏者の技量とアンサンブルの妙を楽しむことができた。


 ワーグナーはアレキジャパンが毎回採り上げている作曲家であるが、今回は小林健太郎氏の編曲で楽劇《トリスタンとイゾルデ》から〈前奏曲と愛の死〉を10人で演奏した。これはもう、まさにオーケストラ! ドイツの伝統的な楽器であるアレキサンダーとワーグナーの重厚なハーモニーの相性も抜群だが、普段からオーケストラで演奏しているメンバーばかり、しかも〈前奏曲と愛の死〉は演奏される機会も多いとあって、ホルンのみによる演奏という違和感をまったく覚えなかった。
 重苦しい緊迫感のあるイントロ部分が終わると、そのハーモニーの美しさと厚みに魅了された。相当なハイトーンを含む、どこまでも続くような長いフレーズを見事に歌い上げる。一方で、それを支える低音軍団(とあえて言ってしまいたい)の力強さ、安定感。特に〈前奏曲〉から〈愛の死〉につながる部分では伴野氏のppでの超低音が、震えるほど格好良かった。〈愛の死〉では愛情と悲しみの入り混じった歌を切々と綴り、その余韻を残して前半を終了した。




今回の目玉! 吹奏楽の名曲からまさかあの曲を!?

 さて、アレキジャパンが小林健太郎氏に委嘱し、今回世界初演されたのがホルン六重奏曲第1番《インターナショナル・ディストリクト》。解説によれば「インターナショナル・ディストリクト」とはアメリカ・シアトルにあるアジア人街で、それを“楽器の街”新大久保と重ね合わせて感じたところにインスピレーションを得たそうだ。
 ここまでもリードする場面が多く見られた日橋氏がトップを吹き、冒頭の美しいソロを聴かせる。速いテンポの主部に入ればカッコイイ“小林節”全開! 躍動感あふれるメロディ、アレキジャパンらしい(=アレキサンダーらしい)明るく華やかな曲調やオーケストレーション。中間部にはオリエンタルな雰囲気も感じられ、光と陰のような対比を見せつつ、異国に暮らす住人たちという二重性も印象づけられた。
 ところで、今年は小林氏の作曲活動10周年だそうだ。「ホルンの作曲家」としてすっかりお馴染みになった氏の節目に当たる曲でもある。楽譜も出版される見込みとのことなので、みなさんもぜひ演奏してみてはいかがだろうか。


 モーツァルト《5つのディヴェルティメント》は1st藤田、2nd鈴木、3rd伴野というフレッシュ(?)なメンバーによるトリオ。シンプルで伸びやかな曲調に合わせた伸びやかな音色が印象的であり、個々の音や動きがわかりやすいトリオの魅力をたっぷりと味わえた。豊かなサウンドときれいなハーモニーがさらに豊かな倍音を生み、「たった3人」を感じさせない。それぞれがリラックスして自由に奏で、それが溶け合ってひとつの音楽を形作っている感じが「これぞアンサンブル!」という感じだった。


 バッハの《プレリュード》と《フーガ》は、今度は1st有馬、2nd上里、3rd久永、4th野見山という、アレキジャパンにも初期から在籍しているベテランメンバー中心のカルテットだ。そういう先入観があるせいか、音にも熟成感が漂っているというか、歌い回しや音色にコクのようなものを感じた。リコーダーのための編曲とあるが、音域さえ合えばそのままホルンアンサンブルのレパートリーとなることが多く、今回もホルンのためのアレンジと言ってもおかしくないと思った。


 さてこの演奏会の目玉が、吹奏楽の名曲にして難曲、スミスの《フェスティヴァル・ヴァリエーション》だろう。実は第6回の演奏会でもリードの《アルメニアンダンス・パート1》を取り上げているアレキジャパンだが、実はそのときにも《フェスティヴァル・ヴァリエーション》は候補に挙がっていた。が、当時は「さすがにホルンで演奏するのは無理だろう」と思ったそうだ。しかし「《アルメニアンダンス・パート1》ができたのだから」と今回の挑戦に至った。
 冒頭のホルンのファンファーレには誰もが期待していたが、さすが完璧。なのだが他のパート――特に木管パートの「速い、高い」、そしてベースパートの「低い!」の超絶技巧の前ではそれさえもかすんでしまいそうになる。ゲシュトップやミュートを駆使して原曲の多彩なサウンドも表現されており、「ホルンはこんなこともできるんだ」と改めて実感。怒涛の前半部に続いて、中間部では憂いを帯びたメロディの歌い込みが心を揺さぶる。そのままフィナーレに突入……。
 もちろん無茶なのだが、音楽として“無理”を感じさせないのがさすが。この曲は以前大阪フィルハーモニー交響楽団でオーケストラアレンジを聴いたことがあって、大胆な楽器の入れ替えを駆使した編曲だったが、曲の素晴らしさがそのまま伝えられた。今回もホルンアンサンブルという編成の違いはあっても、それに近い印象を受けた。これは名手が10人そろったからこそ可能になった“奇跡の演奏”だったのではないだろうか。圧倒され、そして感動した。


 アンコールソロ用に譜面台が2本立てられ、(楽器を103から309に持ち替えた)上間、日橋の両氏が前に立った。「もしや」という期待通り、《ティコ・ティコ》が始まり、ソロの2人が細かな動きまで余すことなく聴かせ、ハモり、そして魅せた。アンコール2曲目はJ.シュトラウスIIの《雷鳴と電光》。中間部で、ホルンの低音で鳴らされる「雷」の大太鼓が個人的にはツボだった。これも超絶技巧曲だが、はっちゃけた演奏が客席を沸かせた。
 いやあ、楽しい演奏会だった。そして、次の演奏会がなるべく早く開催されることを願わずにはいられない。






メンバー&使用楽器
有馬純晴(東京都交響楽団) 107MBL
上里友二(シエナ・ウインド・オーケストラ) 103MBL
上間善之(東京交響楽団) 309MBL、103MBL
金子典樹(新日本フィルハーモニー交響楽団) 103MBLHG、107GBL
鈴木優(藝大フィルハーモニア)*賛助出演 103MBL
伴野涼介(読売日本交響楽団) 103M
日橋辰朗(読売日本交響楽団) 103MBL
野見山和子(東京都交響楽団) 103MLHG
久永重明(読売日本交響楽団) 103MLHG
藤田麻理絵(新日本フィルハーモニー交響楽団)  103MBL




文:アレキサンダーファン編集部 今泉晃一


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