アレキサンダーファン
2012年05月掲載
第51回 アレキファン的「ホルンの“ホ”」
シンフォニア・ホルニステン
シンフォニア・ホルニステンのメンバー  
   

 シンフォニア・ホルニステンは、京都市交響楽団の小椋順二氏、仙台フィルハーモニー管弦楽団の須田一之氏、九州交響楽団の林伸行氏、フリーランスの広川実氏、そして昨年名古屋フィルハーモニー交響楽団から京都市交響楽団に移籍した水無瀬一成氏によるホルンアンサンブル。全員がアレキサンダー103を使用している。
 これまでも東京・大阪・名古屋のような大都市以外で精力的に演奏会を開いてきたが、2012年2月には千葉県市川市(9日)、埼玉県さいたま市(10日)、そして栃木県小山市(12日)という関東公演を実施。実はこれ、昨年東日本大震災によって中止となった北海道・東北公演などを含む全国ツアーの一環であり、さらに2010年8月にNPO法人となった記念公演でもあった。


地方での演奏を通じてホルンという楽器にもっと親しみと理解を


今回の演奏会について、メンバーそれぞれにお話をうかがった。


小椋さん

「東京や大阪などの大都市では、海外のオーケストラの公演や、ホルンのクリニックなどもあり、アマチュアのホルン吹きがプロの演奏に接する機会が多いですが、地方に行くとそういう機会はどうしても少なくなります。日本中でこれだけ吹奏楽が盛んになっていても、ホルンの技術や奏法のことに関してなかなか正しいことが伝わっていない状態なんです。楽しく吹こうと思ったら、ある程度そういう知識は必要だと思いますし、何よりも生の音を聴くことが大切です。
 我々はそういう、他の人たちがあまり手の届かないところに行って、ホルンという難しい楽器に親しみと理解を持ってもらい、もっともっと楽しく吹いてもらおうというのが大きな目的のひとつです。そのためにも、地元で熱心に活動していらっしゃるアマチュアの方と一緒に吹く機会を設けるようにしています。一緒に吹くことで、口であれこれ言うよりも早くわかるじゃないですか。例えばアンサンブルのときの息づかいや音楽的なやりとりのしかたなど、実際に体感してもらえますから」

林さん

「ホルンアンサンブルがNPO法人になったというのは、これまで例がないと思います。東京と大阪だけで演奏会をしていれば、アンサンブルとしてはやっていけるんです。でも、そういうところは年間を通じて生のホルンアンサンブルを聴く機会があるじゃないですか。我々は地方の苦労を知っている人間なので、普段演奏会が少ない地域であえてやろうと。そのためにはやはり経費がかかりますし、情報網も必要になります。そこでファンクラブを年間2000円で募り、ゲネプロの公開や各地域でのメンバーとの交流会、さらにはアマチュアのホルン奏者同士の交流という機会を持つという活動をしているんです。また、法人格があると、学校教育に関する活動がスムーズに行くということもあります。学校の音楽鑑賞でホルンアンサンブルを聴ける機会というのもあまりなかったと思いますから」

須田さん

「震災から1年経ちますが、宮城県でも沿岸部はまだまだ厳しい状況です。私の住んでいるマンションも全壊になって、いま集中工事を始めています。仙台フィル自体はすぐに活動再開できる状態でしたが、やはり半年くらいは小さな編成に分かれて、各地の避難所で演奏を続けていました。私自身もかなりの回数を行ないましたね。
 シンフォニア・ホルニステンも、去年の3月には仙台で集まって練習し、6月には北海道・東北公演という予定もあったのですが、すべてキャンセルになってしまいました。嬉しいことに地元の仙台でも『シンフォニア・ホルニステンの皆さんは来ないんですか?』という問い合わせがありますので、いつか実現させたいですね。今回は関東公演ですが、千葉・市川での公演をもって、メンバー全員の地元での演奏会ができたことになります」

広川さん

「シンフォニア・ホルニステンをひとことで言えば“仲良しアンサンブル”(笑)。ホルン以外のことも気が合いますしね。食べることが多いのですが(笑)。メンバーは全国に散らばっていますが、基本的には関西に集まってリハーサルをすることが多いです。そのスケジュールも、半年とか1年前に決めています。
 今回は私の地元でもある千葉県市川市で演奏会を行ないました。やはり地元での公演というのは緊張しますね」

水無瀬さん

「もともと関西の人間なので、普段は栃木などに行く機会は少ないですが、地方に行ったときの一番の楽しみは、ご当地の美味しい物を食べることですね(笑)。
 シンフォニア・ホルニステンは楽器が全員アレキサンダーということで、5人でパンと音を出したときに、“気持ちよく揃う”という感覚がありますね。同じようにfに上がったり、同じようなpを出したり、音色が変化するポイントが一緒ということで、アンサンブルとして陰影を付けやすいような気がします」



博物館でしかお目にかかれないような楽器の音も体験

 今回の演奏会のトピックとしては、プログラムに五重奏が取り入れられたことが挙げられる。メンバーは5名だが、これまではスケジュールの関係でほとんどがカルテットだったが、今回はシュティーグラーの《フーベルト・ミサ》より、ゼイフリートの《小組曲》の2曲をクインテットで披露した。
「四重奏と五重奏は1人の違いですが、それだけでハーモニーとか音の厚みが全然変わるんです。四重奏というのは基本的な単位ですが、実はかなり難しいものだなと(笑)。それが五重奏になると各自に助けが入ってきたように感じられるんです」と須田さんが言うように、演奏会の1曲目《フーベルト・ミサ》は確かに五重奏ならではの安定した響きが印象的。
 筆者が聴いたのはさいたま市の埼玉会館小ホールであり、残響のかなり少ないホールでホルンを演奏するのには少し厳しい印象もあったのだが、それだけに個々の音色やフレージングを明確に聴くことができ、その上で細かな部分まで息が合っていることがクリアに感じ取れた。
 もともとシンフォニア・ホルニステンはいたずらにレパートリーを増やさず、長い期間をかけて丁寧にアンサンブルを作り上げてきた団体だけに、こういう古典的な曲では特に、ホルンによるハーモニーの魅力を感じることができるのだ。決して力を込めて吹いているわけではないが、5人の音が重なった瞬間に、「ああ、アレキサンダーの音だな」と魅せられるシーンも何度もあった。


シンフォニア・ホルニステン

 続く「楽器の歴史探訪」もこの団体ならではのコーナー。まさに“horn”の語源となった動物の角による角笛から始まり、金属の直管、それを丸めたポストホルンや狩猟ホルン、ナチュラルホルンに至る流れを、実物を吹きながら解説。ホルンの仲間である楽器も、伸縮式直管のチベットホルン「ドゥンチェン」や、蛇のような形状を持ち、管に空けた穴を指で押さえて音程を変化させるセルパンなど、博物館でしかお目にかかれないような楽器の音を実際に聞けたのは、貴重な経験だった。須田さんがセルパンでモーツァルトの協奏曲第1番や「オペラ座の怪人」を演奏したのだが、もやもやとしていかにも「未完成(失敗作?)の楽器」といった音だったのが面白い。


シンフォニア・ホルニステン 演奏風景
 
 
シンフォニア・ホルニステン 演奏風景
 
 
シンフォニア・ホルニステン 演奏風景
 
 
シンフォニア・ホルニステン 演奏風景
 

 前半最後はノイリンクの《狩猟四重奏曲》。狩りの様々な場面を表現した曲だが、狩りの荒々しい雰囲気よりも、音楽の美しさを優先した演奏であり、どこを取ってもハーモニーの美しさを味わうことができた。もちろんブラッシーな表現もあるのだが、うるさく感じないのは演奏者の技量だろう。


シンフォニア・ホルニステン 演奏風景


新しいレパートリーを楽しみに

 後半のプレトリウス《バロック組曲》もカルテットの定番で、シンフォニア・ホルニステンでもずっと演奏してきた曲。派手な表現はせず、ダイナミクスも自然なものだが、音と音の重なりが美しく、聴き慣れた曲ながらつい耳を傾けてしまう魅力があった。
 リヒターの《6つの小品》は故郷のスイスの森に響く狩猟ホルンをイメージしたかのような、大自然を感じさせつつ、よく歌う曲で、ノイリンクとはまた違った明るく柔らかなイメージの狩りの音楽を聴かせてくれた。
 ロシアのミツーシン《コンチェルティーノ》はゲルマン系の他の曲と雰囲気が違い、それに合わせて演奏も華やかなファンファーレからメランコリックなメロディに至るまで、とにかくたっぷりと歌う。他が感情表現を内に秘めている分、さらにこの曲が印象づけられる。しかし、例えば第2楽章のゆっくりのメロディを感傷的にはせず、どちらかというと牧歌風に歌っているのがシンフォニアらしい。第3楽章はテクニカルな動きが重なっていくのだが、それをひけらかす方向ではなく、曲を味わうようにして作り込んで行っているように感じた。


シンフォニア・ホルニステン 演奏風景

 最後は再び5人でゼイフリート《5本のホルンのための小組曲》。改めて感じたのだが、シンフォニア・ホルニステンというアンサンブルの魅力は、全員のレガートの美しさ。丁寧にハーモニーを作り上げて行くことと相まって、どの曲も素直に「美しい」と感じられるのが一番の魅力だ。内面的な表現が多いが、決して根暗にはならず、素直に曲の良さ、ホルンアンサンブルの楽しさ、美しさを伝えてくれる。
 今後はクインテットの機会も増える可能性があるということだが、四重奏、五重奏に関わらず、彼らの演奏でもっともっと新しいレパートリーを聴いてみたいというのが素直な感想だった。


シンフォニア・ホルニステン 演奏風景

「これからも少しずつ五重奏のレパートリーを開拓して行って、新しいプログラムを組めればいいなと思っています」ということなので、今後がまた楽しみだ。



アレキサンダーホルンオーナーズクラブ事務局


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