アレキサンダーファン
2006年01月掲載
プロフィール
阿部雅人 阿部 雅人
福島県出身。東京芸術大学音楽学部卒業。在学中に東京フィルハーモニー交響楽団に入団。
ホルンを永沢康彦、大野良雄、守山光三、千葉馨の各氏に、室内楽を山本正治、中川良平の各氏に師事。
東京文化会館推薦音楽会出演。96年に福岡、97年に福島でリサイタルを開く。
現在、新日本フィルハーモニー交響楽団団員。東京ホルンクラブメンバー、東京ミュージック&メディアアーツ尚美講師、日本ホルン協会事務局長。
アレキサンダーホルンアンサンブルジャパンメンバー。
第03回 達人の息吹


皆様、明けましておめでとうございます。
今年も皆様にとって幸多き一年になるようにお祈りいたします。特に、このサイトを見た方には、特別良いご利益があるはず!‥‥だといいですね。
というわけで、今年一年、健康が一番!ホルンは適度に、で頑張りたいと思います。

では、さっそく先月の続きですよ。
前回は歯にポイントを当てて説明しました。歯と唇の関係はとても密接です。前回に話したことだけではなく、これからも色々な場面で歯は登場します。
唇にマウスピースを当てる、という一つの事だけでも、実に様々なポイントがあります。今回は歯との距離です。

はあ?距離?
それが大事なんです!
皆さんも、一度くらいは、「あんまり唇にマウスピースを押し付けないで吹くんだよ」と先輩ホルン吹きに言われたことがありますよね?確かにそれは決して間違ってはいません。が、その言葉には、とても危険な落とし穴があるのですよ。
もし、皆さんが唇にマウスピースをほとんどプレスしないで高い音や大きい音を吹かなければいけなかったらどうしますか?やってみればわかりますが、唇をかなり締めないと高い音は出ませんよね?大きい音はどうですか?ちゃんと鳴ったでしょうか?
両方とも、響きの硬い苦しい音になったのではないでしょうか。
ホルンらしい響きの音を出すためには、適度なプレス、というか歯に対しての密着が必要なのです。押し付けなければ良い、というのはちょっと間違っている、と思います。

では適度とはどれくらいかということです。
皆さんもマウスピースを手に取ってください。そして、唇に全く力を入れない状態!(少しでも入れてはいけませんよ)でマウスピースを軽く当ててみるのですが、この時に、歯にぴたっとくっつく所まで歯の方に押し当てます。でも、力を入れていないので、別に痛くはないですよね?(その程度ですよ)そして、マウスピースが歯に密着していることが分かりますか?その、マウスピースと歯(たぶん上の歯を意識した方がいいと思います)との距離を、よーく覚えておいてください。
そして実際に音を出してみましょう。先ほどの距離との違いはどうでしたか?歯とマウスピースは離れていませんでしたか?この距離が、力を入れないでマウスピースを当てた時と、実際に吹いた時が、ほとんど同じであることが望ましい。唇に力を入れて、硬くすればするほど、マウスピースと歯の距離は離れていくでしょうし、押さえ付けると痛いはずです。しかし、その距離の違いは、よく観察しないと分からない程度の微妙な違いかもしれませんよ!

密着させる事のメリットはたくさんあります。
一つは、本来の鳴りを出すためです。弦楽器でもピアノでも、弦が駒に密着してピーンと張っているから鳴るわけです。歯は弦楽器の駒にあたります。振動体(唇)が駒(歯)にくっついて初めて体全体に共鳴するのです。

もう一つは、楽器を構える時の角度に影響してきます。
プレスを出来るだけしないで演奏しようとしたり、疲れてくると、人間は本能的に上の唇から圧力を逃そうとして、だんだん下向きに構えるようになってきます。これが問題なのです。そうして吹くと音程や音色に重大な欠陥が出ます。理由はいっぱいあります。ななめに唇を使うと唇が適正に振動しないために大きく豊かに鳴らすことが困難になります。音程も、ある音域は上ずりやすかったり、反対にある音域はぶらさがったりと、安定しません。高い音を出そうとすると、どんどん上唇に力を入れていかないと出ないために、音は貧弱になります。何よりも、いわゆるハモる音色が出ないのです。

実は僕もそんな問題を持っていました。歯がいわゆる噛み合わせが深くて、普通に構えて、上の歯と下の歯に平均に圧力をかけようとすると、どうしても下向きになってしまいます。でも、そうしか吹けないのだから仕方ないとずっと思っていました。でもやっぱりそれじゃダメなんですね。その吹き方ではプロとして満足のいく音は出ませんでした。
それを解決するには、楽器の角度を水平に近く上げて吹くしかありません。とは言っても全く水平だと僕は音が出ないので、出来る範囲でですが。イメージとしては、唇から息が出て行くときに、息が唇をななめにこすって出て行くのではなく、まっすぐに出て行くように、とでも言いますか。そうするためには、僕のような噛み合わせの人は、下あごを少し前に突き出すようにして吹くしかないのです。初めは違和感がありますが、人間とは柔軟性があるものですね!そのうちに普通になってしまいました。でも調子が悪くなると、やっぱり以前の癖は出るものです。気をつけなければいけませんね。
けれども、だからといって下あごを出しすぎてもいけません。また別の意味で鳴らなくなります。何でも適度に!というのが大事ですね。

先ほどの距離の話に戻りますが、歯とマウスピースの距離を縮めると、結果的に鼻の下に特徴的な膨らみが出来ます(先月号の写真を参照してください)。それがある方が上唇に無駄な力が入っていない証拠になります(振動するのは、主に上唇ですから)。上唇の全体に力を入れ過ぎるから、筋肉が邪魔をしてマウスピースが歯に近づけないのです。
アンブシュアというと、とかく唇全体の事と捉えられがちですが、本当は、マウスピースの中に隠れている部分(アパチュア)をコントロールしなければいけないのです!そこが鳴るのですからね(だんだん核心に近づいてきましたよ!)。ですから、上唇に力を入れるにしてもアパチュアの周辺で、マウスピースの上の鼻の下の部分までは、あまり力を入れないほうがいいと思います。
 大事なのはアパチュアがどうなっているかだと思います。広すぎたり狭すぎたりすればそういう音になるし、硬ければ音も硬くなるでしょう。
いつも言っていますが、奏法や顔かたちには個人差があります。最後は音で判断して下さい。全ては音に表れます!!
自分の音を聴いて、もし問題点があればそれを修正するような唇の使い方をすれば良い訳ですから、僕が書いていることは、ヒントとして受け止めてくださいね。誰にでも当てはまる訳では決してありません。

レヴェルアップのヒントはまだまだいっぱいありますよ。
それはまた今度の楽しみに取っておきましょう。
それではまた来月!


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